希望の夢路
耳に光る金色のイヤリング、首から下がるネックレス、丈の長いワンピース、
黒いヒールのショートブーツ、そして青色のスカーフを巻いた彼女は、
いかにも育ちの良さそうなお嬢様に見えた。
「うん、お願い」
私の代わりに、彼が言った。
彼はどんどん先へ行ってしまう。
私を置いて、どこか遠くへ行ってしまうのではないかといつも不安になる。
「ふふ、かしこまりました」
遥香さんは彼を見て笑った。遥香さんは、彼と仲が良かった。
というのも、二人は大学時代の先輩後輩の関係で、一度は愛し合った仲―
「心愛さん、こちらへどうぞ」
遥香さんが私を見て言った。
―待ってよ。勝手にどんどん、先へ進めないでよ。
「心愛さん…?どうなさいました?」
立ち尽くす私を見て、遥香さんが言った。
心配そうな顔で、こちらを見ている。
「心愛ちゃん、どうした?」
彼が心配そうに私の顔を覗き込む。
私は彼に、服を押し付けた。
「心愛ちゃん、どうしたんだよ、試着…」
「私、こんな服いりません…!」
「なんてことを言うんだ!」
彼は、怒りを露わにした。
「この服を作るのにどれだけの労力と時間を費やしているか、考えたことはあるのか?
デザインだけでも大変なんだぞ!それを、こんな服いらない、だなんて…!」
私ははっとした。なんて酷いことを言ってしまったのだろうと、今更ながら後悔した。
「あ…私…ひどいことを…」
それに、彼がこんなに怒るなんて、思わなかった。やっぱり、遥香さんはすごいな。
彼をこんなにさせるくらい、魅力的な人なんだなと思った。
彼がこんなにむきになる人だもの、私が敵うような相手じゃない。
「心愛さん…」
遥香さんが私に近寄り涙を拭いてくれるまで、私は気付かなかった。
自分が、泣いていたことに。
「ごめん、心愛ちゃん…言い過ぎた」
彼の言葉は、耳に入らなかった。
「せっかくの可愛いお顔が、台無しですよ」
にこっと笑って私を見ている遥香さんは、美しい。
私の顔は、可愛くなんかない。
なのに、どうして私にそんなことー
「ほら、せっかく、ひろくんが選んでくれたんですから、ね?着てみましょ。
心愛さんは華奢だから、どれを着ても似合いますよ」
私は、既にこの場から逃げ出したい気持ちになっていた。
なんだか、彼がとても遠くの人に感じる。
すぐ近くにいるのに、手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、
とても手の届かない存在に思えてならなかった。
なんだか、とても悲しくなってきた。
「…心愛ちゃん」
私は彼の声に、びくっ、とした。
「ごめん、言い過ぎたよ」
彼は申し訳なさそうに再び謝った。
彼は私の手を握った。
いつもなら、私は彼の手を放さない。
でも、今はもう、そんな気分ではなかった。
私は、彼の手を躊躇なく放した。彼は、驚いて目を丸くしていた。遥香さんも、驚いていた。
「遥香さん…本当にごめんなさい」
私は深く頭を下げた。
「いいえ、いいんです。心愛さんは悪気がないってことぐらい、わかってますから」
「本当に…ごめんなさい」
私はなかなか、頭を上げられなかった。私、なんて酷いことを言ったんだろう。
最低だ、私。
「もういいですから、頭上げて下さい」
私はゆっくりと頭を上げた。視界が、滲んでいる。
バカみたい、私。勝手に博人さん好きになって、勝手に遥香さんに嫉妬して…。
彼に会わなければ、彼を好きにならなければ、こんな辛い思いしなくて済んだのに。
「心愛ちゃん」
「こんな素敵な服、私には似合わないんです。だから、ごめんなさい」
「そんなことありませんよ。心愛さんに似合います。ひろくんの見立て通り」
―ひろくん、って呼んでるんだ。
親密さがその呼び名から窺い知れる。
何が何だか、わからなくなってきちゃったよ。
なんか、もうどうでもよくなってきた。
「心愛ちゃん、着てみてよ」
「…なんか、疲れちゃった」
私はその場に座り込んだ。
何をする気力も、今の私にはなかった。
「大丈夫ですか!?」
遥香さんが私に寄り添う。
「大丈夫?心愛ちゃん」
彼も、心配そうに私を見た。
もう何も言いたくなかったし、聞きたくなかった。
こんなことになるなら、来なきゃよかったな。そんな考えさえ浮かんだ。
私はただ、ぼんやりと宙を見つめていた。
黒いヒールのショートブーツ、そして青色のスカーフを巻いた彼女は、
いかにも育ちの良さそうなお嬢様に見えた。
「うん、お願い」
私の代わりに、彼が言った。
彼はどんどん先へ行ってしまう。
私を置いて、どこか遠くへ行ってしまうのではないかといつも不安になる。
「ふふ、かしこまりました」
遥香さんは彼を見て笑った。遥香さんは、彼と仲が良かった。
というのも、二人は大学時代の先輩後輩の関係で、一度は愛し合った仲―
「心愛さん、こちらへどうぞ」
遥香さんが私を見て言った。
―待ってよ。勝手にどんどん、先へ進めないでよ。
「心愛さん…?どうなさいました?」
立ち尽くす私を見て、遥香さんが言った。
心配そうな顔で、こちらを見ている。
「心愛ちゃん、どうした?」
彼が心配そうに私の顔を覗き込む。
私は彼に、服を押し付けた。
「心愛ちゃん、どうしたんだよ、試着…」
「私、こんな服いりません…!」
「なんてことを言うんだ!」
彼は、怒りを露わにした。
「この服を作るのにどれだけの労力と時間を費やしているか、考えたことはあるのか?
デザインだけでも大変なんだぞ!それを、こんな服いらない、だなんて…!」
私ははっとした。なんて酷いことを言ってしまったのだろうと、今更ながら後悔した。
「あ…私…ひどいことを…」
それに、彼がこんなに怒るなんて、思わなかった。やっぱり、遥香さんはすごいな。
彼をこんなにさせるくらい、魅力的な人なんだなと思った。
彼がこんなにむきになる人だもの、私が敵うような相手じゃない。
「心愛さん…」
遥香さんが私に近寄り涙を拭いてくれるまで、私は気付かなかった。
自分が、泣いていたことに。
「ごめん、心愛ちゃん…言い過ぎた」
彼の言葉は、耳に入らなかった。
「せっかくの可愛いお顔が、台無しですよ」
にこっと笑って私を見ている遥香さんは、美しい。
私の顔は、可愛くなんかない。
なのに、どうして私にそんなことー
「ほら、せっかく、ひろくんが選んでくれたんですから、ね?着てみましょ。
心愛さんは華奢だから、どれを着ても似合いますよ」
私は、既にこの場から逃げ出したい気持ちになっていた。
なんだか、彼がとても遠くの人に感じる。
すぐ近くにいるのに、手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、
とても手の届かない存在に思えてならなかった。
なんだか、とても悲しくなってきた。
「…心愛ちゃん」
私は彼の声に、びくっ、とした。
「ごめん、言い過ぎたよ」
彼は申し訳なさそうに再び謝った。
彼は私の手を握った。
いつもなら、私は彼の手を放さない。
でも、今はもう、そんな気分ではなかった。
私は、彼の手を躊躇なく放した。彼は、驚いて目を丸くしていた。遥香さんも、驚いていた。
「遥香さん…本当にごめんなさい」
私は深く頭を下げた。
「いいえ、いいんです。心愛さんは悪気がないってことぐらい、わかってますから」
「本当に…ごめんなさい」
私はなかなか、頭を上げられなかった。私、なんて酷いことを言ったんだろう。
最低だ、私。
「もういいですから、頭上げて下さい」
私はゆっくりと頭を上げた。視界が、滲んでいる。
バカみたい、私。勝手に博人さん好きになって、勝手に遥香さんに嫉妬して…。
彼に会わなければ、彼を好きにならなければ、こんな辛い思いしなくて済んだのに。
「心愛ちゃん」
「こんな素敵な服、私には似合わないんです。だから、ごめんなさい」
「そんなことありませんよ。心愛さんに似合います。ひろくんの見立て通り」
―ひろくん、って呼んでるんだ。
親密さがその呼び名から窺い知れる。
何が何だか、わからなくなってきちゃったよ。
なんか、もうどうでもよくなってきた。
「心愛ちゃん、着てみてよ」
「…なんか、疲れちゃった」
私はその場に座り込んだ。
何をする気力も、今の私にはなかった。
「大丈夫ですか!?」
遥香さんが私に寄り添う。
「大丈夫?心愛ちゃん」
彼も、心配そうに私を見た。
もう何も言いたくなかったし、聞きたくなかった。
こんなことになるなら、来なきゃよかったな。そんな考えさえ浮かんだ。
私はただ、ぼんやりと宙を見つめていた。