クワンティエンの夢(阿漕の浦奇談の続き)
鳥羽さんはおとうさまです(郁子言)
「(梅子に)いや、ハハハ、ひょっとしたらそうやも知れまへん。だったらひとつ堪忍してやってください。しかしとにかくお嬢様がたのそばに来てみたら、私には何かこう、どう云ったらええんやろ、なつかしいような…ちょうど長年ほったらかしにしとった家族に会(お)うたような…そんな気がしましたんねん。なぜですやろ?」と亜希子に向いてわざとらしく訊くのに「わかりません」と左手で口を覆い、右手を顔の前でふってその亜希子が苦笑する。
無論まじめに訊いたわけではないだろうが敢て亜希子に尋ねたいという風情が鳥羽にはあった。しかしいかにもつかみどころのない話で、元よりそれを自覚している鳥羽は「いや、ハハハ、まったく。無茶苦茶なことを云うてもうて。若い娘(いと)はんらの前で。ほんまにしょうもない爺さんや。すんまへん。私、先ほども云いましたが鳥羽と申します。出版の会社に勤めてましたが今は定年退職して、楽隠居させてもろうてます。ひとつ、御縁いただけるようでしたら、よろしゅうお頼申しあげます」と長口上を終えた…。
「なんか不思議。お話をうかがっているうちに私もそんな御縁を感じました」と匡子が云い「ねえ、ほんとに。私もそう。ほほほ」と相方の慶子が受ける。「おとうさま、という気がします。たしかに」とまじめ顔で云う郁子も、またなぜか必要以上に恥ずかしがり、顔を上気させている(柄にもなく、である。ふだん決して取り乱さず、自分を失うことのない娘だった)亜希子も、さらには無言のままでいる織江と絹子も含めて皆一様に話に打たれている観があった。前述したが‘逆縁の’梅子でさえもそうである。転生をまたぐ、合縁奇縁の気がみなぎろうとする感すらあるのだが、しかし2人ばかりまったくそんなことに不感症の者がいてその内のひとり恵美が「匡子と慶子じゃないけど、まさに‘お上手ですわ’、ですよ。関西の‘年寄り’は、年を取ってもなかなかやるもんですなあ」などと、若い娘の気を引く話をしやがってとばかり、男のようなしゃべりかたでぬけぬけと云ってみせ、その場をぶちこわしてみせる。加代は加代で「梅子さん、いいんですか?あんなこと云わせといて」と小声で主(あるじ)梅子に尋ねたりもする。その様子を見ながら舌打ちする思いで亜希子が「じゃ、恵美、あなたが鳥羽さんとの最初の歌合わせをしてね。関東の‘男らしい’ところを見せてあげなさいよ。鳥羽さん、お手柔らかに、どうかよろしくお願いします」と恵美を責めながらもなお気遣いつつ、歌合わせの端を鳥羽に頼み込んだ。
無論まじめに訊いたわけではないだろうが敢て亜希子に尋ねたいという風情が鳥羽にはあった。しかしいかにもつかみどころのない話で、元よりそれを自覚している鳥羽は「いや、ハハハ、まったく。無茶苦茶なことを云うてもうて。若い娘(いと)はんらの前で。ほんまにしょうもない爺さんや。すんまへん。私、先ほども云いましたが鳥羽と申します。出版の会社に勤めてましたが今は定年退職して、楽隠居させてもろうてます。ひとつ、御縁いただけるようでしたら、よろしゅうお頼申しあげます」と長口上を終えた…。
「なんか不思議。お話をうかがっているうちに私もそんな御縁を感じました」と匡子が云い「ねえ、ほんとに。私もそう。ほほほ」と相方の慶子が受ける。「おとうさま、という気がします。たしかに」とまじめ顔で云う郁子も、またなぜか必要以上に恥ずかしがり、顔を上気させている(柄にもなく、である。ふだん決して取り乱さず、自分を失うことのない娘だった)亜希子も、さらには無言のままでいる織江と絹子も含めて皆一様に話に打たれている観があった。前述したが‘逆縁の’梅子でさえもそうである。転生をまたぐ、合縁奇縁の気がみなぎろうとする感すらあるのだが、しかし2人ばかりまったくそんなことに不感症の者がいてその内のひとり恵美が「匡子と慶子じゃないけど、まさに‘お上手ですわ’、ですよ。関西の‘年寄り’は、年を取ってもなかなかやるもんですなあ」などと、若い娘の気を引く話をしやがってとばかり、男のようなしゃべりかたでぬけぬけと云ってみせ、その場をぶちこわしてみせる。加代は加代で「梅子さん、いいんですか?あんなこと云わせといて」と小声で主(あるじ)梅子に尋ねたりもする。その様子を見ながら舌打ちする思いで亜希子が「じゃ、恵美、あなたが鳥羽さんとの最初の歌合わせをしてね。関東の‘男らしい’ところを見せてあげなさいよ。鳥羽さん、お手柔らかに、どうかよろしくお願いします」と恵美を責めながらもなお気遣いつつ、歌合わせの端を鳥羽に頼み込んだ。