クワンティエンの夢(阿漕の浦奇談の続き)
梅子の悪巧み
一方‘向こう陣営’では先ほどらい梅子に負けぬほどイラつき気味だった恵美が小声で‘大将’梅子になにごとかご注進しているようだ。「ちぇっ、梅子さん、いつまであの坊主に云わせておくんです?色即是空だの、じゅ、じゅそうぎょうブニャブニャだの、抹香くさくて反吐が出そうですよ。もう…いきなりここで、あたしがブチかましてやりましょうか?もし張り合うんだったら何事も先手必勝ですよ。このままでは部長や鳥羽のジジイ、それに坊主と、あいつらまとまってしまいますよ。まさか、梅子さん…怖いんじゃないでしょうね?」と大将に戦いの先駆けをすすめる。蓋しもっともなご注進だとおもわれる。ことの正邪、善悪がいずれにあるかは問わず、単に勝敗を競うのであれば、向こう陣営が固まらないうちに‘やってしまう’のがベストであろう。2人の間で加代はまだ何を云うべきか決めかねているようだ。とにかく、さにかく、大将梅子のご意向がすべての加代だった。蓋しこちらは梅子のコバンザメのような塩梅だったろうか?
さてその梅子は「怖いとはなによ。あんな坊主や鳥羽など…誰が。いいからあたしに任せておきなって。いいかい、恵美、それに加代…」とここからはさらに声をひそめて「あたし、さっき思い出したんだけどさ、あの東尋ってやつは…」とばかり何事かをボソボソと2人に告げるのだった。聞きながら加代が吹き出し、恵美は例のごとくものすごいニタニタ笑いを顔に浮かべた。どうも記憶力抜群の梅子が東尋のことでなにごとかを思い出したようだ。はたして乞食然としたこの東尋御坊は赤の他人である梅子がその名に思い当たるほどに、意外やなにかの有名人なのだろうか?その東尋の話が再開するような気配を察して最後に梅子が「とにかくさ、恵美、あたしも抹香問答をこれ以上続ける気はないんだ。ブチかましとは云わないがそれらしいことをイラつき気味にやっておくれよ。それをきっかけにしてあたしがあいつの正体をみんなにバラしてやるからさ。ハナっからじゃなくていいよ。もう少しあいつにしゃべらせてやりな」と早口で告げて、さて何食わぬ顔で僧の説法を鷹揚に聞く素振りをするのだった。
さてその梅子は「怖いとはなによ。あんな坊主や鳥羽など…誰が。いいからあたしに任せておきなって。いいかい、恵美、それに加代…」とここからはさらに声をひそめて「あたし、さっき思い出したんだけどさ、あの東尋ってやつは…」とばかり何事かをボソボソと2人に告げるのだった。聞きながら加代が吹き出し、恵美は例のごとくものすごいニタニタ笑いを顔に浮かべた。どうも記憶力抜群の梅子が東尋のことでなにごとかを思い出したようだ。はたして乞食然としたこの東尋御坊は赤の他人である梅子がその名に思い当たるほどに、意外やなにかの有名人なのだろうか?その東尋の話が再開するような気配を察して最後に梅子が「とにかくさ、恵美、あたしも抹香問答をこれ以上続ける気はないんだ。ブチかましとは云わないがそれらしいことをイラつき気味にやっておくれよ。それをきっかけにしてあたしがあいつの正体をみんなにバラしてやるからさ。ハナっからじゃなくていいよ。もう少しあいつにしゃべらせてやりな」と早口で告げて、さて何食わぬ顔で僧の説法を鷹揚に聞く素振りをするのだった。