もう、我慢すんのやめた


階段2つ降りなきゃだし。
生徒玄関までの廊下、思いのほか長いんだよな。


「よいっしょ」


重さに耐えかねて持ち直せば、口から自然とそんな声が漏れてハッとした。


”よいしょ”なんて、若者は言わないってテレビでやってたけど、あれ本当?


私、気付くと言ってるけど。この間もお風呂上がりにソファに座りながら言ったばっかりだ。


……みんな気づいてないだけで、実は意外とよいしょ星人だと思うけどな。



「重っ」

「っ!?」


どうでもいいことばっかり考えながら、ひたすらゴミ捨て場を目指していた私は


突然、フワッと軽くなった左手に驚いて振り返る。


「誰も手伝ってくれなかったのかよ、こんな重いのに」

「佐倉!……もう掃除終わったの?」

「音楽室、基本早く終わる」

「そっか、いいな〜」

「だから手伝う」

「……ちょ、待って!ありがとう」


”重っ”なんて言ってた割には、軽々持ち上げてスタスタ私より先を行ってしまった佐倉を慌てて追いかけながら


夏休み中、気づけば思い出してたばかりいた佐倉でさえ、昨日の弥一との出来事ですっかり薄れてしまっていたことに気付く。
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