もう、我慢すんのやめた

「私との縁。結んでね?この先、何度も何度も」



上履きに履き替えて、佐倉の背中を追いかける。

冗談めかして、さっきの佐倉の言葉を口にすれば、佐倉の顔はますます赤く染っていく。


「やめろ、色々思い出したら恥ずかしくなってきた」

「嬉しかったよ」

「もう忘れろ」

「忘れない。嬉しかったから絶対、忘れらんない」

「……勝手にしろ」



私の言葉に短く返した佐倉が、それからすぐ、ピタリと歩くのをやめてクルッと私を振り向いた。


「な、なに?」


つられて自然と私の足も止まる。
何言われるのかなって、ドキドキする。


数回まばたきして、佐倉の次の言葉を待っていた私を



「……付き合ってるふり、続けてやろうか?」

「っ、」



佐倉は簡単に甘やかす。

普段は、口が悪くて意地悪ばかりだし

口数が少なくて、滅多に声出して笑わないし

人の事なんてどうでもいいって顔して

女性恐怖症だって治ってなくて……
今も、私よりずっと辛い過去を抱えてるのに。


どうして、こんなに強くて優しいんだろう。


ねぇ佐倉、甘えてもいいかな。

私、このまま佐倉を好きになりたい。
この気持ちに嘘はない。



「……お願い、します」



だから今は、何も言わずそばにいて欲しい───。
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