もう、我慢すんのやめた
思い出すと、今でも胸がギューってして少しだけ苦しくなるのは
私の中で弥一のことをちゃんと"過去"にできてないからなのかもしれない。
嫌いになったわけじゃない。
だけど、好きなのともどこか違う。
姿を見つけるだけで、懐かしさで胸がいっぱいになって。消化しきれない気持ちが溢れてくる。
こんな気持ちを、なんて呼ぶんだろう。
「……っ、あぶね!!!」
「へ!?」
突然、遠くから大きな声が聞こえて
フッ、と我に返った時にはボールが私めがけてすぐそこまで迫っていた。
目をギュッとつぶって、痛みを覚悟した私は
後ろからふわっと私を包み込む腕の感触に、今度は閉じた目を開けた。
スローモーションのように、抱きしめられながら
優しく香る、柑橘の匂いに
こんな時だって言うのに頭の中で、呑気な私が『あ、知ってる』って思った。
次の瞬間、鈍い音が鳴り響いて
やっとスローモーションの世界から抜け出した。
慌てて庇ってくれた腕の中から抜け出した私は振り返る。
「佐倉?……ご、ごめんね、大丈夫?」
「あ〜〜っ、もう最悪」
振り返った先にいたのは、やっぱり佐倉だった。