もう、我慢すんのやめた
さっき優しく香った、柑橘の匂いは
朝、佐倉が席に着いた時と同じ匂いだった。
「い、痛む?本当にごめん、保健室行く!?」
昼休み同様、その場にしゃがみこんで両手で顔を隠すように覆っている佐倉。
あんな勢いの強いボールが当たったんだもん。
相当痛かったんだろうな。
あぁ、もう完全に私がぼーっとしてたせいだ。
「ど、どうしよう。佐倉……立てる?」
「……かったんだよ」
「え?何、聞こえなかった」
「だから!自分でもまさか抱きしめるとは思わなかったんだよ」
ヤケクソとでも言いたげに、さっきとは比べ物にならない大きさで言葉を放った佐倉は
固まる私を見て、今度は恥ずかしそうに下を向いた。
「え?……痛いんじゃなくて、もしかして」
「うっせぇ、それ以上しゃべんな」
「事故とは言え、私を抱きしめたことに対する恥ずかしさに悶えてらっしゃいますか?」
「だから……!」
あ、真っ赤。
本当に、佐倉ってすぐに赤くなる。
きっと、ボールが当たりそうなのを見て咄嗟に助けてくれたんだろうな。
代わりにボールに当たってくれて、痛いはずなのに。