もう、我慢すんのやめた


一瞬、涙も引いて「なっ、」って間抜けな声を出した私は弥一を振り向く。



「芽唯……」

「なに?ど、どっか痛む?……頭痛いとか?」



先生言ってたっけ。
軽い脳震盪でも、後遺症が出るケースもあるって。


そんなことを思い出しては、また果てしない不安に襲われて、1人で顔面蒼白になっていた私を見ながら、弥一は静かに首を振って


「アホだな」とでも言いたげに柔らかく笑った。


それから、心の底から思ってるって声のトーンで



「……無事で、よかった」



そう言って、掴んでた腕を撫でるように滑り降りた弥一の手が、私の手をギュッと強く握った。


まるで、ここにいることを確かめるみたいに。



「っ、弥一の、おかげだよ。……ありがとう」

「ほんと。……俺ヒーローすぎ」



冗談めかして笑う弥一に、「うん」と素直に頷いて、"あぁ、いつもの弥一だ"って安心する。


いつだって、周りのことばっかり考えて、気を回して。自分のことは二の次で、どんなときも優しく笑ってる。


私の好きだった頃の、私の知ってる弥一だって。
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