もう、我慢すんのやめた



くちびるに、柔らかい感触。


何が起きたかなんて、すぐに理解できたのに。分かりたくないって頭がゴネて言うことを聞かない。


……家に帰ったら連絡するって約束してたのに、なんて。このタイミングになってやっと佐倉のこと思い出す自分が情けなくて、本当に嫌いだって思った。


佐倉が好き。
この気持ちは、今更どう頑張ったって消えない。


あんなに好きだった弥一に、こんなに優しく触れられてるっていうのに、私が求めてるのは変わらずずっと佐倉だってことも。


どう足掻いたって変わらないのに。



「……な、んで……」


手の甲で口元をおおって弥一を見れば、酷く悲しそうな瞳で見つめ返されて、


「……芽唯、ずるいこと言っていい?」

「えっ?」

「ケガ治るまで、俺のそばにいて?」

「……や、いち……」

「アイツんとこ行かないで。俺だけ見てて?」



───息の仕方を忘れた。

苦しくて、苦しくて、酸素を求めてる私の体がだんだん痺れていくみたいに。

身体中から力が抜けて、麻痺したみたいに動かない。


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