もう、我慢すんのやめた
しかも、"デート"なんて言うけど。
私と弥一はもちろん付き合っているわけじゃない。
「佐倉〜!!置いてくなよ、カラオケ行くって約束だろ?」
───ドクンッ
廊下の向こう側からそんな声が聞こえて来て、私はの心臓は大きく波打った。
"佐倉"
その名前に、体が勝手に反応したせい。
「テツが1人で盛り上がってただけだろ。俺は行くなんて一言も言ってねぇ」
「うっわ、ツレねぇやつ!!裏切り者〜!!」
どんどん近づく声に、急いで下駄箱からローファーを取り出して、代わりに上履きをぶち込む。
も、虚しく。
「お!芽唯じゃん、おっつ〜」
あと少しのところで追いつかれて、頭の上からテツの呑気な声が響いてきた。
「あ、おつかれ」
ぎこちなく笑顔を作る私の隣に外履きを並べたテツが「芽唯も行く?」なんて言って手をマイク代わりに歌い出す。
能天気とは、まさにこいつのことか……と、妙に納得してしまう。バイトに繰り出した萌菜がこの場にいてくれたら、テツに鉄拳がめり込んでいたに違いない。
思わず佐倉へと視線を向ければ「こいつ、アホすぎて手に余す」と肩を竦めた。