もう、我慢すんのやめた
あーあ。

佐倉、すっごい嫌そう……。


いやいや引きづられて行く佐倉に、思わずクスッと笑ってしまう。懐かしいな、この感じ。



「っ、?」



ふと、佐倉が振り返って私を見た。
相変わらず歩くのをやめないテツに、引きづられるように歩きながら


静かに、確かに私に向けて方手を上げたんだ。


"じゃあな"


佐倉が、そう言ってくれている気がして、瞬間的に嬉しい気持ちが込み上げてくる。

言葉はなくても、まるで2人だけの秘密のやり取りみたいで、ドキドキする。


だって、きっと。
テツですら私たちのこのやり取りを知らない。

すぐに口角を上げて、なるべく笑顔で私も佐倉に手を振った。


"またね"って。



そんな私を見て、同じく少し口角を上げた佐倉は、クルッと方向転換してテツと一緒に帰っていく。


本当に一瞬の出来事なのに、私の胸の中にずっと残り続ける佐倉の姿。


切なくて、苦しくて、愛しくて。
あの背中になんの迷いもなく抱きつけたら、どれだけ幸せだろう。


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