もう、我慢すんのやめた
「っ、」
キツく目を閉じて、痛みを覚悟したとき。
フワッと香る柑橘の香り。
目の前で優しく揺れる明るい茶色。
あっ、と思った時にはグッと抱きしめるように引き寄せられていた。
「っぶね〜 」
「さ、佐倉?」
目の前には、焦った顔で私を見つめる佐倉。
……な、なんでここにいるの?
そんな疑問も、私を抱き寄せている腕と反対の手に持っているペットボトルを見つけてすぐに察した。
きっと、自販機の帰りだ。
「わりぃ!大丈夫……?」
「あ、うん!ビックリしたけど。私の方こそ前見てなくてごめんね!」
ぶつかったのは靴の色からして同じ2年生の男子。
さすがに男の子は、女子とぶつかったくらいじゃビクともしないのか。
……って、感心するとこじゃないんだけど。
「なら良かった」と笑った男子生徒は続けて「じゃあ」と少し気まずそうに会釈をして、今度こそ階段に向かって歩き出した。
それを目で追いながら、未だに抱き寄せられたままの体がジリジリと火照って行くのを感じて、
「あ、ありがと、助けてくれて!」
慌てて佐倉から少し距離を取った。