もう、我慢すんのやめた


「佐倉が女性恐怖症を克服しようって頑張ってること知ってるのに、今の私は佐倉が他の子に優しくしてると嫌だなって思う。名前で呼んでくれないだけで胸が苦しくなる。電話をかける手が震えるし、声を聞いたら泣きそうになる。……佐倉の背中を見つけると、全部投げ出して抱きつきたくなる」

「芽唯……、それって」

「佐倉が、今も私を好きでいてくれたらいいのにって……、これから先も泣き虫な私の隣で、涙を拭ってくれるのは佐倉が良くて、佐倉の胸で甘やかして欲しくて、わがままだけど……でも、ひゃっ」



まだ言いたいことは山ほどあるのに。
握っていた私の手を軽く引っ張って、佐倉が簡単に私を胸の中に閉じ込める。


大好きな匂いに包まれて、一瞬でなにも考えられなくなって。そうなった私の頭は、直ぐに涙腺に涙を出すように指示を始めた。


「もう、黙っとけ。今度は俺の番」

「まっ、まだ私のターン終わってない……!」


そう口では言いながらも、佐倉の体温を感じてしまった今、抵抗する気なんてサラサラない。

久しぶりの佐倉は、相変わらず柑橘で。


絞りたてのレモンみたいな、だけど、程よく甘ったるいハチミツみたいな香り。
< 227 / 233 >

この作品をシェア

pagetop