もう、我慢すんのやめた

「父子家庭でさ。親父と兄貴に守られて育って、そんな自分が嫌だった」

「えっ……」

「中学でトラウマ抱えてから、もう投げやりに生きてたとこあったし。転校しても人と深く関わる気なんてなかった。……なのに、ズカズカ俺の中に入ってきて、勝手に掻き乱して、楽しそうに笑って」

「……私、ですか」

「他に誰がいるんだよ」



佐倉は私をキツく抱きしめたまま。私は佐倉の胸におでこをくっつけて、佐倉に「ごめんなさい……」と小さく謝罪はした。

ドキドキとうるさい2人分の鼓動。

ドキドキしてるのは、私だけじゃないんだって思ったら、それだけではにかんでしまうくらい嬉しい。


「いつも守られて育った俺が、初めて守ってやりたいって思った。甘やかして、芽唯が苦しむ要素全部、俺がとっぱらってやりたいって」

「……佐倉」

「すげぇ余裕ねぇよ。芽唯のことになると、ガキみたいに嫉妬する。アイツのそばにいたいって言われたあと、気が狂いそうだった。……でも、大人ぶって"送り出す覚悟だった"なんて言ったけど、隣に芽唯がいない毎日は苦しくて仕方なかった」


耳元で聞こえる佐倉の声。ギュッと強く抱きしめられて、目には涙がたまり始める。

だけど、泣かない。

< 228 / 233 >

この作品をシェア

pagetop