もう、我慢すんのやめた
佐倉の顔には嫌悪感が滲んでる。
頼むから、もうやめて欲しいって顔。
「……っ、謝ろうって思った朝に、佐倉が転校したって聞かされて。本当にごめん!宇野のせいで佐倉が女性恐怖症になったって噂で聞いて」
だけど、春田くんは佐倉の気持ちよりも自分の罪悪感を拭うことを優先した。
今日まで抱えてた罪の気持ちを「ごめん」の一言でなかったことにしようとしてる。
私にはそんな風に見えた。
多分それは佐倉も同じで。
「……もしそれも、有りもしない噂だったら?」
「っ、」
「俺はもう過去は捨てた。俺の中に存在しない過去でお前が苦しむ必要もないだろ。……俺との記憶なんか全部、忘れろ春田」
「佐倉……」
佐倉は、優しい。
どこまでもどこまでも、人のことばかり。
どれだけ自分を傷付けて、犠牲にして来たんだろう。どれだけ人を守って、盾になって来たんだろう。
人が闇に遭遇したとき、
強さと弱さは紙一重になるけれど
佐倉のは、いつだって圧倒的な強さだ。
「じゃーな、春田。……行くぞ」
「あ……うん!」
春田くんは、佐倉の強さを前に何も言えず。そんな春田くんに軽く会釈して、私は佐倉の後を追った。