もう、我慢すんのやめた

「中学のとき、春田って親友がいた。春田にはずっと好きなやつがいて、いつもそいつの話聞かされてた」


……突然、ポツリポツリ話し始めた佐倉に、私はどこか緊張してる。


これから、佐倉の口で語られる佐倉の過去に。
私は何て言葉をかけてあげられるだろう。



「そんなある日、春田の好きなやつから"春田のことで相談がある"って呼び出された。

正直すげーだるかったけど、春田のことでって言われたら行かないわけにも行かなくて。……春田の気持ち知ってたし」


フッと自嘲気味に笑って、だけどその目はどこまでも哀しく揺れている。


もし今繋いだ手を離したら、佐倉が壊れちゃうんじゃないかって心配になるくらい


今、私の目の前にいる佐倉は脆い。
過去と戦ってるけど、もう既にHPは残りわずかって感じ。


「ゆっくりでいいよ、佐倉」


だから、佐倉に私のHPを全部あげる。
佐倉が負けないように、繋いだ手から力をあげる。


ギュッと握り返した手に、佐倉がビクッと肩を揺らしたのがわかる。だけどすぐに、佐倉の口元には笑みが戻って……


「お前、握力強すぎ」


なんて、冗談めかして笑う。
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