おじさんは予防線にはなりません
今日着てきた浴衣は呉服部で宗正さんが選んでくれたのだ。

「これはオレからのプレゼント」

こそこそと宗正さんの手が私のあたまで動く。

「鏡、見てみて」

持っているコンパクトミラーを開いて見る。
三つ編みを添えて簡単にお団子にしてきた髪に、桜色の花のかんざしが揺れていた。

「詩乃(うたの)に似合うって思って。
それに今日の浴衣、ピンクの花柄だから合うかなって」

ぽりぽりと照れくさそうに宗正さんが頬を掻く。

「……今日は名前で呼びたいけど、ダメかな」

自信なさげに上目遣いでうかがわれると怒る気にはなれない。
以前は計算だと思っていたけれど、これはどうも池松さんと同じで天然らしい。

「いいですよ。
かんざし、ありがとうございます」

「うん。
行こっか」
< 118 / 310 >

この作品をシェア

pagetop