おじさんは予防線にはなりません
「用は済んだんだろ?
早急に頼みたいことがあるんだけど」

「えっ、あの」

私の手を掴み、布浦さんを無視して宗正さんは事務所の方へと踏み出す。

「……あ」

宗正さんが急に足を止めて振り返り、布浦さんはまた怯えたように身体をびくっと振るわせた。

「聞きたいようだから教えてあげるけど。
彼女いるっていうのに媚び売ってくる女に困ってて、これつけるようにしたの。
ただそれだけだから。
……いまのところは」

最後、ぼそっと呟くように言われた言葉が布浦さんに聞こえていないことを祈った。
それでなくてもさっきから、青くなったり赤くなったり大忙しだから。

「いこ、詩乃」

「あっ」
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