おじさんは予防線にはなりません
今度こそ、宗正さんは私の手を掴んだまま事務所に戻っていく。

「それで、頼みたいことってなんですか?」

無理矢理自分の席の椅子に座らされ、少しだけ落ち着いた。

「んー、ないよー」

「……はい?」

ふにゃんと気の抜ける顔で笑われ、私のあたまの中にでっかいクエスチョンマークが浮かんでくる。

「詩乃が困ってそうだったからー」

ああもう、褒めて褒めてってしっぽ振り振りで見られると、なにも言えなくなっちゃう。

「……ありがとうございます」

「ご褒美、欲しいなー」

宗正さんの茶色い瞳が、いたずらっ子のようにきらりんと光った。


欲しいご褒美はあとから教えてあげるって言われて、変なことじゃなかったらいいなーと祈りながらいつも通り仕事をこなす。
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