おじさんは予防線にはなりません
「じゃあ、また明日」

きょろきょろと周囲を見渡し、大河はちゅっと私の額に口づけを落とした。

「……また、明日」

ぶんぶんと手を振る大河に見送られて改札をくぐる。
電車に乗るとどうにか確保できたドア端に寄りかかった。


大河は不意打ちのあの一回以降、唇にキスしてくることはない。
いつもだいたい、額にキスしてくる。

でもそれはそこまでしか手を出す気がないんじゃなくて、私を試している。
その証拠に唇が離れると大河は毎回、私をじっと見つめている。

――キスして。

その言葉を待つように。

きっと言ってしまえば私は楽になれるのだろう。
大河に愛され、大河を愛して。
わかっているのだけれど、口にしようとすると池松さんがちらつく。

いまだに私は池松さんが諦められないでいた。
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