おじさんは予防線にはなりません
「あー……」

決まり悪そうに、池松さんは宙を見た。

「誰かと、一緒だったか」

「……はい」

「驚いただろ」

はははっ、乾いた笑いが池松さんの口から落ちる。

「妻は常に、恋をしてないと死んでしまうんだ。
泳いでないと死ぬ、マグロと一緒だな。
だから俺には、止める気がない」

池松さんはなんでもない顔をしているけれど。

「池松さんは本当にそれでいいんですか」

恋をしていないと死ぬなら、池松さんに恋をしていればいい。
世理さんは池松さんの奥さんなんだから。
なのにあんな。

「ああ。
俺はわかっていて妻と結婚した。
それだけ――世理を愛していたから」
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