おじさんは予防線にはなりません
「私が、池松さんを好きだから」

「……っ」

苦しげに池松さんの顔が歪む。
困らせるつもりはない。
ただ、私の気持ちを知ってもらいたかった。

「昨日キスしたの、酔ってたからじゃないです」

「だからあれは……」

「なかったことになんかできません。
私は池松さんが好きだから、池松さんとキス、したかったんです」

池松さんはなにも言わない。
私も黙ってコーヒーを啜った。

「……俺には」

ずいぶんたってぼそっと、池松さんが呟いた。

「俺には、妻がいる。
あんな女でも愛して……」

言葉が途切れたのを不審に思い、顔を上げる。
池松さんはなぜか、虚ろに宙を見ていた。
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