おじさんは予防線にはなりません
「池松さん?」

「ああ、いや。
なんでもない。
とにかく俺には妻がいるから、羽坂の気持ちには応えられない」

誤魔化すように池松さんは僅かに笑ったけれど、いまのいったい、なんだったんだろう?

「わかってます。
片想いでかまわないんです。
だから――私の気持ちを、否定しないでください」

池松さんから返事はない。
わかっている、こんなこと簡単に答えられないって。

「こんな私が一緒の職場にいるのが迷惑なら言ってください。
辞めますので」

「いや、仕事にプライベートを持ち出す気はない」

きっと居心地が悪くなるのに、きっぱりとそう言い切るのは池松さんらしい。

「……羽坂はそれで、……本当にいいのか」

レンズの奥の瞳は複雑な色をしていた。
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