おじさんは予防線にはなりません
お酒が進むにつれて、ぽつりぽつりと奥さんのことを池松さんは話しだした。

「妻とは高校が一緒だったんだ。
昔っからああいう性格で、でもそんなところが好きで。
……それで、付き合った」

もそもそとお肉を食べている池松さんは完全にらしくない。
そういう姿は苦しくなる。

「けどやっぱり、俺と付き合ってるのに平気でほかの男と遊びに行くのが耐えられなくて、別れた。
……なのに」

くいっ、一気におちょこに残ったお酒を池松さんが飲み干すので、お銚子を掴んで注ぐ。

「同窓会で再会して、懐かしいのもあって話が弾んで、そのまま勢いで入籍した。
若かったんだな、あの頃は」

苦笑いを浮かべ、また一気にお酒を飲み干す。
すかさずお銚子を差し出すと、池松さんはおちょこで受けた。

「あれから十三年、か。
あの世理にしては長く続いたんじゃないか。
だいたい、最初からわかってたんだ。
いつか世理はいなくなるって」
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