おじさんは予防線にはなりません
くいっ、池松さんがお酒をあおる。
再び注ごうとしたお銚子は空になっていた。
新しいお酒を頼もうとしたが、止められた。

「まあ、しょうがないよな」

笑う池松さんは酷く淋しそうで、私の方が泣きたくなる。

――だから。

「私でよかったら、池松さんを慰めてあげます」

「羽坂、君、なにを言って」

「私じゃ、代わりにもなりませんか」

じっと見つめた、レンズの向こうの瞳は、迷うように揺れていた。

「……そう、だな」

おちょこを口に運びかけ、空だと気づいてテーブルの上に戻す。
それっきり、池松さんは黙ってしまった。


タクシーの中でずっと無言だった。
池松さんも黙って窓の外を見ている。
だから私もずっと黙っていた。
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