おじさんは予防線にはなりません
「羽坂」

あの日、泊まったマンションの寝室で、池松さんは私をベッドに押し倒した。

「本当にいいんだな」

まだ、レンズの向こうの瞳は揺れている。
自分から腕を伸ばし、その薄い唇に自分の唇を重ねた。

「……はい」

瞬間、池松さんの唇が重なる。
呼吸さえも奪ってしまうような口付けは、それだけ彼が追い詰められているのだと感じさせた。

私の上で、池松さんが腰を振る。
絶頂を迎える瞬間、小さく「世理」とだけ漏らした。



目を開けると、隣で池松さんが眠っていた。

……結局、言ってくれなかった。

嘘でいいから好きだと言ってほしかった。
たとえそれが、世理さんに向けた言葉でもかまわない。
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