おじさんは予防線にはなりません
よく見えないのか、池松さんはわざわざ眼鏡をかけ、苦しそうに眉を寄せた。
違うと、ぶんぶん首を横に振る。

愛している池松さんに抱かれて、嬉しかったのだ。

でもそこにない彼の心が私を悲しくさせる。

「違うんです。
ただ、……そう、酷く、悲しい夢をみて。
だから」

「夢なら忘れてしまえ」

躊躇いがちに伸びてきた手が、私をぎゅっと抱きしめる。
腕の中は酷く温かくて、……いまだけ。
いまだけ、この優しさに縋らせてください。


朝、世理さんが置いていった服を借りて着替え、やっぱり置いていった化粧品を借りてメイクした。

「朝メシ、食うだろ」

「あ、すみません!」

あの日と同じで、ダイニングのテーブルの上には朝食が並んでいる。
< 257 / 310 >

この作品をシェア

pagetop