おじさんは予防線にはなりません
「私ね、和佳が好きだった。
いくらふらふらしても、絶対に待っててくれる。
そんな安心感に甘えてたのね。
――でも」

言葉を切った世理さんは、ふっと遠い目をした。

「最後の方の和佳、待つのに疲れたって顔してて気になってた。
別れるって言ってあげたらいいのはわかってたけど、私に勇気がなくて。
もう、和佳が待っているのが、私の中では当たり前になっていたから。
和佳には悪いことをしたと思ってる」

目を伏せた、世理さんのまつげは細かく震えていた。
彼女も本当は池松さんを愛していたに違いない。
なのに私がいま、その妻の座にいてもいいのか不安になってくる。

「けどね、羽坂さんといるときの和佳の顔、昔の顔に戻ってた。
本人、全然自覚してなかったみたいだけど。
ちょうどそのとき、渉から『どこにも行かないで、僕だけを見て、僕と一緒にいてほしい』なんて熱烈なプロポーズされちゃって。
いままでそんなこと、私に言ってくれた人、いなかった。
だから離婚を決意したの」

渉さんを見上げる世理さん目は、とても愛おしむようだった。
< 298 / 310 >

この作品をシェア

pagetop