おじさんは予防線にはなりません
それだけいまは、渉さんを愛しているのだろう。

「……なら。
黙って出ていくなんてしないで、ちゃんと和佳さんと話してほしかったです」

こうやって説明してくれれば、あんなに和佳さんは落ち込まずにすんだ。
気持ちの整理だって、もっと早くにできていたかもしれない。

「……そうね。
怖かったのよ、和佳と向き合うのが。
さんざん待たせて置いて、もっと好きな人ができたから離婚して、なんて。
だから黙って出ていった。
これで和佳が自分の気持ちに素直になれたらいいって願って」

「……そんなの、勝手です」

怒りで、ぶるぶると膝の上に置いた拳が震える。

「……うん。
和佳には悪いことをしたと思ってる。
もうきっと、許してもらえないだろうけど」

最後に見た世理さんは、泣き笑いだった。
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