おじさんは予防線にはなりません
「これくらいで訴えたりしないですよ」

「本当にいいのか」

どこまでも真剣な池松さんの気持ちは嬉しいが、そんなことをすれば仕事を失いかねない。
それにそれで契約解除になったとなれば、派遣会社も次の派遣先を斡旋しづらいだろう。

「はい。
これくらい、大丈夫ですから」

笑顔を作って答えると、池松さんは渋々ながら納得してくれたようだった。


森迫さんは私たちが会社に戻ったときにはすでに帰っていた。

「もう、大変だったんですよ」

後頭部を氷の入った袋で冷やしながら、宗正さんはジト目で池松さんを睨んだ。

「会議室にふたりになったとたん、押し倒されて。
火事場の馬鹿力っていうんですか?
押しのけようとしてもびくともしないし。
本多課長が来るのがあと少し遅かったらオレ、マジで犯されてましたよ」
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