おじさんは予防線にはなりません
「結局あの日、ばたばたして行けなかっただろ。
その傷の快気祝いも兼ねて」

くいっと眼鏡をあげられると、胸の中がぽっと熱くなる。
いままではそんなことはなかったのに。

「じゃ、じゃあ。
ごちそうになります」

「うん」

私が頷き、嬉しそうににかっと池松さんが笑った。
その笑顔は眩しすぎて困る。


あの日、ごたごたしてお礼のネクタイは渡せずじまいで机の引き出しに入ったままだ。
いい機会だからランチに行ったときに渡そうと思う。

池松さんは喜んでくれるかな。
それとも、……迷惑だって言われたらどうしよう。
そんなことを考えて、急に不安になってきた。


「あっ、ふたりでどこ行くんですか!?」

お昼、池松さんと一緒に会社を出ようとしたら、目ざとく見つけた宗正さんが寄ってきた。
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