おじさんは予防線にはなりません
「食後にコーヒーで」

注文を復唱し、メニューを回収して店員がいなくなる。
宗正さんは瞳をうるうると潤ませ、池松さんの腕に縋りついた。

「池松係長ー、オレ、マジでピンチなんですってー」

本気で宗正さんが困っているということは、頼んだステーキランチってそんなに高いんだろうか。

いいのかな、ほんとに。
そんなのおごってもらって。

「わかった、わかった。
君の分も払ってやるから心配するな」

邪険に宗正さんを振り払い、池松さんはくいっと眼鏡をあげた。
やっぱり最初から、宗正さんの分も払うつもりだったんだ。
優しいな、池松さんは。

「ほんとですか!?
ありがとうございます!」

宗正さんに犬の耳としっぽが見えるのは気のせいかな。
それも小型の、ミニチュアダックス。
そしてしっぽはもちろん、勢いよくパタパタと振られている。

宗正さんがミニチュアダックスなら、池松さんは黒ラブ?
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