正義が悪に負ける時
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「ごめんね、せっかく休み取ってくれたのに僕が取れなくて。」
「気にしないで。
また改めてお祝いしよ!」
4回目の結婚記念日、
僕は出会ってから初めてフユミに嘘をついた。
“休暇が取れなかった”
仕事に行くフリをして車に乗り込み、
会社へは行かず近くのパーキングへ密かに駐車した。
興信所を使わなかったのは、まだ心のどこかで僕の勘違いだと思っている部分があったから。
それに・・もし仮にあの時見かけた女性がフユミだったとしても、
腕を組んでいた相手はかなり高齢に見えた。
もしかしたら彼女が昔世話をした患者だったのかもしれない。
何かの事情で仕事途中にあそこのショッピングモールへ行ったのかもしれない。
そこでたまたまバッタリ会っただけなのかもしれない。
足腰が弱る高齢者の為に、介護をするかのように自分の腕を預けてあげたのかもしれない。
数時間後、自宅からフユミが運転する軽自動車が出ると同時にパーキングから出て、
バレないようその後ろを尾けながら、
僕はそう自分に言い聞かせていた。