正義が悪に負ける時
フユミは僕の全てを知っている。
生い立ち、家族、進学、
就職、初婚、離婚。
初めて結婚した相手。
離婚に至った経緯。
ポツリポツリと告白した僕の手を取り、
一緒に涙を流してくれた。
フユミは僕の全てを知っている。
闇に覆われたこの心を。
それを晴らしてくれたのが君だったという事を。
だからこそ、僕は“無”の表情を浮かべながら見つめていた。
ビジネスホテル“ラード”に車を停めた彼女を。
中へ入り、しばらくするとこの前の男性と腕を組みながら出てきた彼女を。
帰ってきて、また二人一緒にホテルの中へ入っていく彼女を。
僕はこの後ドラッグストアに寄った。
大量の芳香剤、キッチンペーパー、消臭スプレー、ゴミ袋。
運転席にぶちまけた嘔吐物、
胃液を処理した後、
風通しの良い場所まで移動して、
窓を全開にしながら車内の異臭が消えるまでずっとそこにいた。
ルームミラーで自分の顔を見ると、
全てがグシャグシャになっていた。
その直後またハンドルに胃液がかかり、
最後の一枚となったゴミ袋は過呼吸を鎮める為に使ってしまった。
“ごめん、残業になった”
そうメールをして、結局この日は時計が24時を越えてから帰宅した。