正義が悪に負ける時


―――――― 


「梶山君。悪いけど札幌営業所まで出張に行ってくれないかな。」


「・・ええ・・大丈夫ですよ。」


「悪いね君ばっかりあっちこっち飛んでもらって。

本社勤務経験を持った人が行ってくれると色々スムーズだから。」


「ここ最近たくさん有給取らせて頂いてたので、お安い御用です。」




あの日以来、何度もフユミとあの男が逢瀬を重ねる現場をこの目で確認した。


カーナビを使わなくても、ビジネスホテル“ラード”まで行けるようになった。



3度目の闇がこの澄み渡った心を包む時、

闇に支配され続けていた僕は支配する側に豹変した。


ただのどこにでもいる男、
2度も不倫をされた哀れな男、


黒に一滴、また一滴と“赤”が染まる。


染まる度に準備は進められていく。


そして課長から札幌への出張を命じられた時、黒はついに完全なる鮮血の赤へと変わった。


ただのどこにでもいる男、
2度も不倫をされた哀れな男は、

妻と不倫相手を殺害する殺人者へと成り代わった。



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