この溺愛にはワケがある!?
第一章 加藤美織の事情
「おはよう、おばあちゃん、お父さん、お母さん」

仏壇に手を合わせ、美織(みおり)は祖母、加藤七重(ななえ)と両親の遺影に向かう。

慎ましやかな平屋の一軒家で、美織は12歳の時から祖母と二人で暮らしていた。
それは両親が共に自動車事故に遭い、一人になってしまったから。
美織の小学校最後の授業参観の日、学校に来る途中で信号無視の車に撥ね飛ばされたのだ。
即死だった。
余りのことに涙も出なかった美織を、迎えに来たのは祖母の七重。
七重は美織を抱き締め優しく言った。

「みおちゃん、おばあちゃんと暮らそ?おばあちゃん、淋しいからみおちゃんが居てくれると嬉しいな」

それは、美織のために言ってくれたのだとすぐにわかった。
壊れてしまいそうな美織が安心して泣けるようにと。
七重の手は震えていて、それに気付いた美織の目からは自然と涙が溢れ落ちた。
そして……二人でずっと泣いていた。

大学四年の時、七重が癌だと診断された。
それを聞いた美織は、実家近くの市役所の試験を受ける。
選択肢は沢山あったが、美織にとっては一択だった。
病院へ入院する七重に、何かあったらすぐに駆け付けられるように職場は病院から近い方がいい。
選んだ市役所は病院にも家にも近かったので、職場はもうそこしか考えられなかった。
美織がそうまでして七重の側にいたいと思っていたのには訳がある。
今度こそ大切な人に寄り添いながらさよならを言いたい。
両親の時のように、何も知らずに突然別れるのはもう絶対嫌だったのだ。

そして、その願いは叶った。
叶ったが、それは七重との別れでもあった………。
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