この溺愛にはワケがある!?
美織は激しく頷いた。
今でもこれはファンタジーな夢で、朝目が覚めたら何もかも嘘だったって言われても驚かない。
だが、現実は。
朝目が覚めたら、イケメンの腕の中。
ただし、畳の上に敷いた固い布団の中なのだけど。

「……怒ったり否定したりしないんだね。その頬、やったのも隆政が付き合ってた女だって聞いたよ?悔しくないの?」

美織の平然とした様子に、院長は不思議がっているようだ。
美織も一時は頭に血が上った。
ちょうど隆政にメッセージを送った時がピークだったと思う。
だがそれ以降特に怒りは感じてはいない。
怒りというか動揺の方が大きかった。
その動揺も、藤堂や職場の人達が親身になってくれたお陰でいつの間にか消えてしまっている。

「悔しい……という気持ちはそんなにありません。もともと、そういう人だったという話は聞いてましたし、知っていて付き合いを了承したのは私ですから。ちょっと動揺はしましたけど、隆政さんの昔のことにいちいち嫉妬するのって馬鹿みたいな気がして……」

「馬鹿みたい!?いいね!僕も君のようにものわかりのいい女性と結婚したかったよ!!」

冗談っぽく笑う院長だが、ひょっとしたら本気かもしれないな、と美織はピンときた。
医者なんて絶対モテる。
昔は色恋沙汰でもめたのかもしれない、そして、奥さんに激しく叱られたのかも……と、いろんな妄想をしてみた。

「ものわかりが良くはありませんよ?浮気なんかしたら即行離婚です。話し合いも妥協もしません。即日です」

「……………それは厳しくないかい?」

院長は面白いくらい青ざめた。

「そうでしょうか??浮気しなければいいだけの話では?」

「…………そ、うだね。うん。そうだ」

(コイツ絶対浮気してるな………)

わかりやすい院長に、美織はにっこりと微笑んだ。
ちょうどその時、院長室の扉がノックされると、彼はすごくホッとした顔をした。
若い女性の看護師が入って来て、院長からカルテを受け取ると、美織は揃って部屋を出る。
去り際に振り返ると、ふぅーっと溜め息をつく院長が見えて美織はくすっと肩を竦めた。
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