この溺愛にはワケがある!?

そして私は途方に暮れる

美織は病院を出て、そのまま帰路についた。
バスに乗り、また市役所前で降りて徒歩で帰る。
大きめの湿布を顔に貼った女はことのほか目立つらしく、すれ違う人は何事かと美織を見た。
女が頬に湿布を貼っている。
その原因として一番考えられるのは、事故、そして次はDVといったところだろうか?
そのどちらとも違う、昼ドラ感満載の展開で受けたものだと妄想する人が何人いるか。
目立つ頬を押さえながら、美織はそのあり得ない事実に少し笑みを溢した。

家に着いたのは、ちょうど午後三時。
まだ平日の明るい時間に、家にいるというのは珍しいことだ。
何をしようか、暫く考えて確か今日は金曜日だったことを思い出した。
明日の土曜は資源ごみの日。
美織は、資源ゴミで出す段ボールを縛り、ペットボトルと空き缶も忘れないように玄関に置いた。
それから冷蔵庫の中の食材をチェックし、足りないものをスーパーに買いに行き、帰ってまったりとコーヒーを淹れる。
久しぶりの有給(半休)である。
満喫しないともったいない、と、美織は有意義に過ごすことにした。
不幸なアクシデントがあってのことだったが、この忙しい時期の休みは貴重だ。

(だからと言って大谷静に感謝はしないけどっ!!)

美織は頬を擦りながら、コーヒーを啜った。
しかし!
今気付いたのだが、腫れた頬が邪魔して上手くコーヒーが飲めない。
これでは、食事をするのも苦労しそうだ。
必然と夕食のメニューは雑炊、またはお粥か、リゾットに決まった。
どれにしよう、冷蔵庫を開けながら考えていると、ピンポーンとインターフォンが鳴る。
急いで冷蔵庫を閉め、廊下に出て来客を確かめる。
するとそこには見知った大きな影が映っていた。

「たっ、隆政さんっ!?」

美織は急いで玄関を開けた。

「ちょっと、メッセージ見なかった??本当に帰ってくるなん………」

目の前が真っ暗になった。
それは隆政のロングコートが真っ黒だったからだ。
美織は彼の顔も見ることもなく、その胸の中にいた。

「隆政さん!もう、何なの?」

きつく抱き締める腕は弛む様子はない。
その代わり、頭の上から絞り出すような声が響いた。

「ごめ…………ん…………」

「え?な、なに?」

良く聞こえず聞き直したが次の言葉はなかった。
ふっと腕の力が弛み、隆政は一歩離れて美織を覗き込む。
その顔は今まで見たことないもので美織は息を詰まらせた。
それは彼女の知らない彼の表情だった。
泣いているのか、怒っているのか、または、笑っているのか?
そのどれとも違うような気もするし、そのどれでもあるような気もする。
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