この溺愛にはワケがある!?
「………ねぇ、どうしたの?」

聞こえてないのかと思うくらい、隆政は何も言わない。
ただそのおかしな表情のまま、手を湿布の貼られた頬に当てた。

「………あの、いい加減何か言ってよ。怖いわよ」

少しイライラした美織はキツく言った。

「ごめん、本当に。これは……この怪我は俺のせいだ。俺の不始末でみおがこんな目に……」

(ああ、なるほど。それでこんなおかしな顔を……)

罪悪感に苛まれた顔。
それがこの表情なのか、と美織は思った。
いつも自信に満ち溢れ伸びた背筋が、今は丸まってとても小さく見える。
頬に当てられた手は少し震えていて冷たい。
美織の好きな伸びやかな声もくぐもってしまって良く聞こえない。
これはあまり見たくない姿だ、と美織は悲しくなった。

「やめて。もう終わったことだし、跡も残らないって」

「そういうことじゃないんだ……俺は、みおを幸せにする自信があると言っておきながら、逆のことをしてしまった……不安にさせて、傷つけた」

「全部が隆政さんのせいじゃないよ。悪いのはあの人でしょ?」

「………だが、原因は俺だ」

「……まぁ、うん」

それは事実。
別れ方が悪かったのか付き合った相手が悪かったのか、それはわからないけど隆政が原因なのは間違いない。

「俺、人がどう思うかなんて気にもしてなかった。自分が言うことで傷ついたりする人がいるなんて考えもしなかったんだ。みおに会うまでは……」

「…………………」

美織は黙って聞いている。
ゆっくり喋る隆政の邪魔をしないように。

「初めて……傷つけたくない、守りたいと、思う人が出来たんだ。なのに……自分が、自分のしたことのせいでその人を……傷つけてしまうなんて」

その声はだんだんと掠れて聞こえなくなった。
顔も俯いてしまって、惨めなものだ。
正直言って、美織はここまで隆政がへこむとは想像していなかった。
恋愛なんてめんどくさいものだと知っているし、ある程度相手から迷惑をかけられるものだと思っている。
自分のことで相手に迷惑を掛けることもある。
美織の認識としては、その程度のものなのだ。
今回は、たまたま隆政の元カノが少し「昼ドラ」だったせいで、こんな結果(傷害事件)になっているが、男女間の問題としては良くある種類のものではないのか?
それとも、美織がこういう問題に鈍いだけなのか?
そのまま泣き出しそうな隆政を前に、美織は途方に暮れていた。
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