この溺愛にはワケがある!?
「今日から俺、ここに住む。結納が終わるまでなんて悠長なこと言ってられるか!不安になるくらいなら、側にいたい。いや、側にいる!いいか?」

(側にいる!って断言しておいて、いいか?と聞かれても……ねぇ。いかんっ!って言ったらどうなるのかなぁ)

その答えも気になったが、ここで問答しても仕方ない。
寒いし、暗いし、早く済ませたい。
美織は、はいはいと頷いた。

「そうか!!うん。よし!!」

「……で、ゴミ……」

「おっ、そうだな!えーと、段ボール……と空き瓶とペットボトル……」

隆政は段ボールを小脇に抱え、両手に空き瓶とペットボトルの入ったビニール袋を下げ玄関を出た。
加藤家を出て左に角を曲がって真っ直ぐ行くと、この地域の集会所がある。
資源ゴミはいつもここで回収していた。

「あら?美織ちゃん。おはよ」

まだ薄暗い中、外灯の下で寒そうに手を擦り合わせる老女がいる。
もし顔見知りでなかったら、亡霊かと思ってしまうほどの雰囲気溢れる登場だ。

「瀬川さん、おはようございます」

三軒向こうの瀬川さん。
地区の役員をやっている人だ。
七重の生きている頃から懇意にしていて、お葬式でもお世話になっていた。

「今日も早いのね……あら?そちら?あ…………まぁ!!」

その反応で、彼女が隆政の顔を知っているということがわかった。

「おはようございます」

実にそつなく挨拶をすると、隆政は仕切られた黄色い篭の中に、一つ一つゴミを分別していく。
それを見て目を剥く老女、瀬川。
芳子がいうところの地域の英雄黒田行政の孫、次にこの地元を背負う男が朝早くに資源ゴミの分別をしている。
これが、驚かずにいられるか。
瀬川はそんな顔をしていた。

「美織ちゃん……あなた、何者?」

隆政に聞こえないように瀬川は呟いた。

「………………地方公務員です」

と、美織は答えた。
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