この溺愛にはワケがある!?

お引越し

目が冴えてしまった二人は、そのまま起きて台所で少し早い朝食を取る。
昨日雑炊だけで済ませた美織は、お腹がすいて堪らなかった。
だが、頬の腫れは院長が言うように今日も続いていて、仕方なくヨーグルトとコーヒーで済ますことにした。
隆政には彼のリクエストで、具だくさんのお味噌汁、甘い玉子焼き、おかかと梅のおにぎりを作る。
昨日持たせたおにぎりが相当気に入ったらしく、どうしても食べたいと言うのだ。
それにしても、紙袋に入った質素なおにぎりをどんな様子で食べたのか?
どう見ても超金持ちそうな男が、空港でおにぎりにかぶり付く姿はさぞ面白かっただろう。
目の前で梅おにぎりを食べている隆政は、すっかりここの台所に馴染んでいる。
まるで家主のようだ。
少し前の美織なら、それを良くは思わなかった。
だが今は、それがとても微笑ましく見えるのだ。

「ん?何?」

(こうみると全くセレブらしく見えないな、口にご飯粒ついてるし)

「ううん、美味しい?」

と、問いかけながらご飯粒を摘まむ。

「ん、あ、付いてた?……ん、旨いよ!!どれも、何でも、最高に旨い。天才なのか?」

「ふふ、そうかもねー、でも、そう言ってくれるのはきっと隆政さんだけよ」

「そんなことは……いや、それでいい。みおの飯が旨いって知ってるのは俺だけでいい」

隆政はおにぎりをペロリと平らげ、ふふんと不敵に笑った。
その言葉の意味、わかるだろ?と言うように。

「隆政さんの味覚と胃袋が少し変わってるだけでしょ?でもありがとう、美味しいって言われるの嬉しい」

二人は同時に破顔した。
外は次第に白んでいき、台所の窓から光も差し込んでくる。
その光を追いながら隆政が言った。

「今日は絶好の引越し日和だな」

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