この溺愛にはワケがある!?
美織の部屋の真向かいの開け放された四畳半の狭い部屋。
そこが、七重の部屋だった。
七重の持ち物は全て当時のまま、何も手付かずで残っている。
美織と隆政は手分けして日記を探した。
本棚や化粧台の引出し、洋服箪笥の中に押し入れの中。
そのどこにも日記のようなものはない。
美織はつい先日開けた桐の和箪笥を、もう一度覗いてみることにした。
お見合いの時、七重に借りた着物が入っているその箪笥を。
観音開きの戸を開け上から順番にもう一度、今度はしっかりと着物を開けて確かめた。
すると八段ある棚の一番下、紫の小紋が入っていたところの敷板が不安定に傾いている。
一度出したのにそれに気付かなかったのは、きっと小紋に気を取られ過ぎて敷板まで見ていなかったせいだ。
美織は板をそっと持ち上げる。
すると、中から朱色のカバーがかかったかわいらしいノートが一冊現れた。
「あったな……本当に」
「うん………どうしよう……」
美織は戸惑っていた。
普通に置いてあるんじゃなくて、こんな風に隠されているなんて思いもしなかったのだ。
つまりこれは誰にも触れられたくない、ということなのだろう。
それを……そんな思いの込められたものを見てもいいのか。
朱色の日記を前に美織は立ちすくんだ。
「みおの自由にしたらいい。見なかったことにしてもいいんだ。大切なおばあさんの持ち物だし、それはみおに残されたものだから」
「私に残された……もの……」
「そうだ。着物の下にあったんならそれを見つけるのはきっと、みおしかいないと思ったんじゃないか?」
その隆政の言葉に美織は妙に納得した。
七重は美織が着物を探すことを予想していたのか。
そして、あの小紋を選ぶことを知っていたのだろうか?
例え全てが偶然だとしても、美織はその偶然が七重の思いのような気がしていた。
「……読んでみる」
「大丈夫か?」
隆政は心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫。ちょっと気が引けるけどね。おばあちゃん、天国で怒ってないといいけど……」
「怒るもんか。七重さんがみおに怒ったりしないよ………じゃあ、俺は居間にいる。読み終わったら呼んで」
「一緒に見ないの?」
「俺が見たらダメな気がする」
ダメな気がするとはどういうことだろう?
と首を傾げた美織に微笑むと、隆政は居間へと去った。
本当は誰かと一緒に見た方が罪悪感は薄まる。
だから隆政を誘ってみたのだが。
仕方ない、と美織は心を決めた。
そしてパラパラとページを捲り、懐かしい七重の文字を指でなぞる。
最初はなんのことはない、日々の暮らしのこと。
父がどうした母がこうした、中学校の授業は退屈だとかそういった他愛もないことだ。
暫くそんなことが続き安心して見ていると、突然ある文字が美織の目に飛び込んでくる。
それは七重が高校に入学した頃。
高校で同じクラスになり、隣の席になった女の子の話。
すぐに気が合い仲良くなると、二人で同じ料理教室を選び共に通った。
美人で実家がお医者さん。
とんでもなく資産家の家に生まれた生粋のお嬢様。
七重と高校で親友となった彼女は……。
彼女の名前は『村上小夏』といった。
そこが、七重の部屋だった。
七重の持ち物は全て当時のまま、何も手付かずで残っている。
美織と隆政は手分けして日記を探した。
本棚や化粧台の引出し、洋服箪笥の中に押し入れの中。
そのどこにも日記のようなものはない。
美織はつい先日開けた桐の和箪笥を、もう一度覗いてみることにした。
お見合いの時、七重に借りた着物が入っているその箪笥を。
観音開きの戸を開け上から順番にもう一度、今度はしっかりと着物を開けて確かめた。
すると八段ある棚の一番下、紫の小紋が入っていたところの敷板が不安定に傾いている。
一度出したのにそれに気付かなかったのは、きっと小紋に気を取られ過ぎて敷板まで見ていなかったせいだ。
美織は板をそっと持ち上げる。
すると、中から朱色のカバーがかかったかわいらしいノートが一冊現れた。
「あったな……本当に」
「うん………どうしよう……」
美織は戸惑っていた。
普通に置いてあるんじゃなくて、こんな風に隠されているなんて思いもしなかったのだ。
つまりこれは誰にも触れられたくない、ということなのだろう。
それを……そんな思いの込められたものを見てもいいのか。
朱色の日記を前に美織は立ちすくんだ。
「みおの自由にしたらいい。見なかったことにしてもいいんだ。大切なおばあさんの持ち物だし、それはみおに残されたものだから」
「私に残された……もの……」
「そうだ。着物の下にあったんならそれを見つけるのはきっと、みおしかいないと思ったんじゃないか?」
その隆政の言葉に美織は妙に納得した。
七重は美織が着物を探すことを予想していたのか。
そして、あの小紋を選ぶことを知っていたのだろうか?
例え全てが偶然だとしても、美織はその偶然が七重の思いのような気がしていた。
「……読んでみる」
「大丈夫か?」
隆政は心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫。ちょっと気が引けるけどね。おばあちゃん、天国で怒ってないといいけど……」
「怒るもんか。七重さんがみおに怒ったりしないよ………じゃあ、俺は居間にいる。読み終わったら呼んで」
「一緒に見ないの?」
「俺が見たらダメな気がする」
ダメな気がするとはどういうことだろう?
と首を傾げた美織に微笑むと、隆政は居間へと去った。
本当は誰かと一緒に見た方が罪悪感は薄まる。
だから隆政を誘ってみたのだが。
仕方ない、と美織は心を決めた。
そしてパラパラとページを捲り、懐かしい七重の文字を指でなぞる。
最初はなんのことはない、日々の暮らしのこと。
父がどうした母がこうした、中学校の授業は退屈だとかそういった他愛もないことだ。
暫くそんなことが続き安心して見ていると、突然ある文字が美織の目に飛び込んでくる。
それは七重が高校に入学した頃。
高校で同じクラスになり、隣の席になった女の子の話。
すぐに気が合い仲良くなると、二人で同じ料理教室を選び共に通った。
美人で実家がお医者さん。
とんでもなく資産家の家に生まれた生粋のお嬢様。
七重と高校で親友となった彼女は……。
彼女の名前は『村上小夏』といった。