この溺愛にはワケがある!?
美織はそこまで読んで一度日記を閉じた。

(これが、七重と行政の出会い……それにしても、何故ケンカ?!黒田の御曹司が……会社経営が傾いてたことに関係あるのかな?小夏さんもまだ絡んでこないし……)

小休止の後、美織は続きを読み始めた。
十二月六日以降、二人は順調に交際を続けている。
初めはお付き合いの意味が良くわからなかった七重も、日がたつごとに恋心を自覚していったようだ。
日記の内容が、行政の素敵なところや好きなところ、ちょっとしたケンカをしてしまい落ち込んでいることなどが、詳細に書かれるようになっていた。
ただ、初めての彼氏の存在をどうしても小夏には言うことが出来ない。
それを後ろめたく思っている、と綴られた箇所が沢山あった。

月日は流れ、七重が高校三年の秋。

『十一月十日

今日は行政さんの元気がありませんでした。
お家の経営は日に日に悪くなり、いろんな所に借金をして首が回らなくなっているそうです。
行政さんは心配しなくていい、君は絶対に幸せにするからと言ってくれますが、それでも私は心配です。
私のことよりもっと自分の心配をしてほしい。
そう思うのです。


十一月二十日

行政さんは今日もお仕事でお忙しいようです。
会う約束をしていましたが突然来られないと連絡があり、私は仕方なく一人で古本屋へ行きました。
欲しい本があったわけではないのです。
ただ何か頭に入れていないと落ち着かない、それだけでした。
古本屋に並ぶ本を眺めて、その中の一冊を手に取ろうと思いました。
しかし随分高い位置にあり手が届きません。
すると、後ろから声が聞こえすっと手が伸びてきました。
「これですか?」
びっくりして振り向く私に、親切な男の学生さんは取った本を手渡してくれました。
すぐに立ち去ってしまった為、お礼を言うことも出来ませんでしたが……。常連客のようなので、また会うこともあるのかもしれません。
お礼はその時述べることにします。


十一月二十五日

今日は小夏さんとの料理教室の日です。
あと三ヶ月ほどでこの教室も終わり。
ですが、小夏さんとはずっとずっと友達でいる約束をしました。
ですから私達は高校を卒業しても度々会うことになるのでしょう。
私は教師になるため大学に、小夏さんは親の言う通り、お見合いをするそうです。
相手は教えて貰えませんでしたが、どうやらとても素敵な方のようです。
素敵と言えば行政さんですけど、彼と似たような方なのかしら?
上手くいけばいいのに、と願わずにはいられません。』


(何だか、話が変な方向に転がってきた……)

美織は自分が青ざめていくのがわかった。
もう悲劇の予感しか感じられない。
その続きを読む勇気を奮い起こすには、暫しの休息が必要だった。
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