この溺愛にはワケがある!?
「なんだろ………」

拾い上げて。広げて。読んだ。
そこには、最近の七重の筆跡で手紙が書かれている。
宛名は加藤美織様、だ。

『加藤美織様

みおちゃん、あなたを置いて先に逝く私を許して下さい。
でも、これから輝く未来が待つあなたは、これを乗り越えて進まなくてはならないの。わかるわね?
さて、この手紙を見ているということは私の日記を見つけたのでしょう。
みおちゃんなら絶対これを見つけると思っていたわ。
でも……そうなると私の恥ずかしい日記の内容は全部バレてしまったのよね?
まぁ……それはいいわ。時効よ時効。
どうかこれを有効に使って下さいね。
みおちゃんがそうまでして知りたかった私の過去。
これが必要な事態が今、起きているのでしょう?
それがなんであれ、みおちゃんの幸せに繋がることならいいわ。
私はみおちゃんの幸せだけを祈ってる。ずっとね。
楽しい日々をありがとう。

三月四日 加藤七重より』

「ふっ………くっ………」

「思い切り泣いていいよ。今日は特別に大声でな」

声を殺して泣く美織に隆政が言う。
三月四日、それは亡くなる一か月前の日付だった。
そういえば病院から一度、七重が家に帰ってきたことがあった。
それはちょうどこの日だった気がする。
この手紙を日記に忍ばせてから、行政に手紙を書き送る。
順番的にはきっとそうだったに違いない。
七重は行政が必ず美織の元を訪れるとわかっていたのか。
今となってはもうわからないが、この手紙の内容からして、ある程度予測はしていたのだ。
美織は大声で泣き、必死で隆政にしがみつき心の中で七重に言った。

(回りくどい!!こんな回りくどいことして楽しいの!?……あ……楽しいのか……そうだ……そういうのが好きな人だった……)

美織は悪態をつくのを諦めた。
そして、今度は七重の笑顔を思い出してみることにする。
ふっと浮かんだのは悔しいくらいに清々しい笑顔。
生ききったと言わんばかりの素敵な顔だ。
それを思い浮かべた途端、美織の目から大粒の涙が溢れた。
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