この溺愛にはワケがある!?
「初めまして。加藤美織と言います。縁あって隆政さんと婚約させて頂いています。お父さん、お母さん……あ……」

美織はくるりと振り返り、隆政にお願いをする。

「ちょっとの間、耳を塞いでてくれる??」

「え……どうして?」

「お願い!!いいって言うまで、塞いでてっ!」

「わ、わかった、わかったよ」

隆政はしぶしぶ言う通りにした。
それを見て、美織は満足そうに頷くとまた手を合わせた。

「……あの、私、最初は隆政さんのこと、全然好きじゃありませんでした。それどころかポンコツだって思っていたんです、あ、すみません……でも、今は違ってて……祖母が亡くなって、一人になって、私、知らず知らずの内に誰かと共に過ごすことに怯えていたんです。それを……彼は、軽々と越えて私の人生に割り込んだ。強引でしつこくて、でも甘々で……」

美織は一旦息を整えてから、後ろで耳を塞ぐ隆政を振り返る。
彼は耳を塞ぎながら、何故か一緒に眼を閉じていた。
その子供のような様子に美織は相好を崩し、また写真立てに向かう。

「彼を……隆政さんを産んで下さって有り難うございます。彼が私を必要としてくれる限り、絶対に幸せにするとお約束します」

自分で言ったことが恥ずかしくなり、美織は赤くなって俯いた。
すると突然肩に手が置かれる。
振り向くと何故か真っ赤になった隆政が、変な顔をして立っていた。
それを見て、美織は更に赤くなった。
隆政が真っ赤になっているわけがすぐわかったからだ。

そう、彼は聞いていた。
前半は約束通りちゃんと耳を塞いでいた。
だが、そのうちに気になって仕方なくなり目を開ける。
そこには、目の前で両親の写真立てに熱心に語りかける美織がいた。
何を言ってるのだろう、と、思わず耳を塞いでいた手を離してしまったのだ。

「酷いっ!聞くなんて!!」

美織は、益々真っ赤になって隆政を小突く。

「ご、ごめん!!聞く気はなかったんだ、本当だ!うん、それに関してはもう本当にごめんなさい!」

と言い、また続ける。

「あ、あのな、俺がみおを必要とする限り……っていうのは一生だからな。一生幸せにしてくれるってことでいいんだよな?な?」

「なっ!?な、な、な、知りませんっ!!」

「えーー、言ったよなぁ」

「知りませんっ!」

美織はプイッと横を向き、それを隆政が楽しそうにからかっている。
寂しかったその部屋には、久しぶりに明かりが灯った。
写真の両親も、心なしか幸せそうな顔をしているように見える。
二人の笑い声は本宅中に響き、しんとしていた空間はほんの一時、当時の賑わいを取り戻していた。
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