この溺愛にはワケがある！？

天岩戸が開くとき

離れの扉は本宅の高そうな扉とは違って、とても馴染みのある（一般的な）仕様になっていた。
本宅の扉が一点物なら、離れの扉はどこにでもある既製のもの。

（どこにでもある扉……か……どこにでもあるドア………どこでも………ドア？………なーんて……）

………………………。
………………………。

先程から変なオヤジギャグしか頭に浮かばない美織は、きっと緊張しているんだと自分に言い聞かせている。
極度の緊張を逃すための方法は人それぞれだが、まさか自分がオヤジギャグでそれを解消する人間だとは思っていなかった。

「インターフォン、鳴らすよ？」

隆政の声に美織はどこでもドアを思考の彼方へぶん投げる。
そして、大きく一つ頷いた。

ピンポーン。
……………………返事はなかった。
隆政は続けてもう二回インターフォンを鳴らし、ドンドンと扉を叩いた。

「婆さん！！いるんだろ！返事してくれ！生きてるかどうか心配だから！」

隆政が大声で叫んだ。
すると、静かだった室内に少し動きがあった。
廊下を踏む軽い音が中から聞こえてくる。
その音はだんだん近づいて、玄関の側までやって来た。

「隆政さん？生きているわよ、心配しないでね」

と、竹を割ったような声が聞こえてきた。
柔らかな中にも一本筋の通った声。
その声だけで、この人は曲がったことが嫌いな真面目な人だとわかった。

「ああ、良かったよ……あのな、そろそろ出てきてくれないか？何が気にくわないか、それを言ってくれよ。わからないじゃないか？」

「………………………」

「婆さん？…………はぁ……しょうがねぇな……今日はお客さんを連れてきてる」

隆政は美織を見下ろした。
そして頷き、自分は一歩下がる。
ドアの前に半歩近づいて、美織は中に向かって声をかけた。

「おはようございます。黒田小夏さん。ええと、お婆様……と、呼ばせてもらってもよろしいですか？私、加藤美織と申します。加藤七重の……」

美織の言葉が終わる前に、中で何かをひっくり返す音がした。
それは陶器か何かが割れたような音だ。
美織はあわててドアを叩いた。