この溺愛にはワケがある!?
車は市内に入り、かなり遠くからでも目視出来るお馴染みのホテルに着く。
着いた途端、何故かドアマンが四人も駆け寄り助手席、後部座席、運転席それぞれのドアを開けた。
その動作は恐ろしいくらい早い。
まるで遅いとクビになるんじゃないか、というくらいの機敏な動きである。
美織以外の三人は、それが当たり前のようにすまし顔で車を降りた。
だが一般庶民代表の美織だけは、すごく申し訳なさそうに顔を伏せて降りるのである……。

そして車から降りるとすぐ、美織は小夏に拉致された。
引き摺られるようにブライダルコーナーの貸衣装部屋に連れて行かれ、普段は絶対に貸さないという高級振袖を持って来させると何着か試着させられる。
だが、それはダメ!美織さんには相応しくない!と、小夏は遠慮なく高級振袖様方に文句をつけ始めたのだ。
美織はここでも既視感をひしひしと感じることとなった。
進水式の時の隆政と全く同じシチュエーションだからだ。

(さすが、黒田家の御方!!DNAとかもう関係ないのかも。黒田家に入ることで、この性質になるのかもしれないわ!!ウィルス?細菌?バイオハザードっ!?)

そんなことを考えていた美織の横では、小夏がまだ高級振袖様にダメ出しを続けている。

「どうしてこう思うものがないのかしら?もうないの??美織さんの美しさを引き出す着物はっ!!」

(だから……私の美しさは出ませんって……無いんだもの……無いものを出せと言われても高級振袖様も困ってしまいますっ!!……どうか気付いてお婆様ー!!)

と、美織は心の中で(あくまでも心の中で)必死に叫んだ。
結局どれもこれも気に入らなかった小夏は見るからに機嫌が悪くなっていった。

(まずい……な、なんとかしなければ……貸衣装店の奥さんも従業員の人も困ってるよぉ……)

絶対権力者の嫁、黒田小夏の機嫌を損ねることはきっと死刑宣告に近いのだろう。
奥さんも、従業員の女の人もどんどん青ざめていく。
美織は状況打開の為、なんとか可愛く提案してみることにした。

「お、お婆様?私、これが気に入ったんですけどぉ……あのぅ、これ、着ちゃいけません、か?」

美織は一番地味目の振袖を手に取り、小夏に向かって訴えた。

「まぁ、そうなの!?美織さんが気に入ったなら仕方ないわね」

(やった!成功、成功!)

「結婚式までには、もっといい打掛けを作りましょうね?わたくしのご贔屓にしている京都の職人さんにお願いしましょう」

(成……功…………か?)

美織はあははと笑って首を傾げた。
どう考えても成功ではない。
事態はまた面倒くさい方に流れていったのだが、今の小夏に逆らえる者などきっといないだろう。
首を傾げたままの美織は困った顔で小夏を見た。
が、その顔もまた小夏の心の琴線に触れたことを美織は知らなかった。
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