この溺愛にはワケがある!?
「な、何??怖いな……俺、何かした??かな?」

何故か美織の渾身の笑顔にビビる隆政。

「………ちょっと、私の笑顔が怖いってどういうことよ!」

「いっ、いや、すごく可愛く笑うから……何かあるのかと……」

そう言って、チラチラと伺うように見、美織の笑顔のウラを必死で探そうとしている。
普段、あんなに美織の真意に気付く隆政は自分に対する好意だと途端にセンサーがポンコツになるらしい。
もちろんそんなウラなど何もない。
あるのは隆政を愛しいと思ったことだけなのだが。

(い、言えないっ!!そんなことぜーったい言わない!!)

「あ、何だ?今度は怒ってるのか?いや、恥ずかしいのか?」

(おっ!センサーが戻ってきた??)

漸く感が戻ってきたらしい隆政は、余裕の笑みが復活し畳返すように美織に詰め寄ってくる。

「何だろうな……みおが恥ずかしがること……」

向かい側からこちら側へ。
座ったままズリズリと詰め寄り、ぐぐっと美織を覗き込む。
思わず仰け反った美織の肩を掴み、鼻先が触れる距離まで近づくとそのまま低く呟いた。

「今日このままホテルに泊まる??」

その超弩級の破壊力の声に、美織は思わず「はい」と言いかけた。
だがそれは声にならず悲鳴に変わる。
美織の視線は目の前の隆政のすぐ後ろ、その肩口から目だけ覗かせた小夏に釘付けになっていた。

「ひっ、おっ、お婆様!?」

隆政も驚いて振り返った。

「うぉ!!婆さん!!びっくりするだろう!!」

小夏はふふふと目を細め、ニンマリと笑っている。
隆政はこんな顔をした小夏はろくなことを考えてないと知っていた。
そして、やはりそれは当たっていた。

「隆政さん、あなた、たまにはいいこと言うのね」

「は??」

「今日ここに泊まるんでしょう??」

「え………ああ、いや、みおに聞いてから……」

「泊まりなさいな、いえ、泊まりましょう。みんなで!ロイヤルスイートが空いているじゃない??」

ん?と、美織と隆政の顔が固まった。
みんなで、と、言ったような……。
いち早く意図を察知した隆政が、抗議の声を上げかけたが、それは援護射撃する行政に撃ち落とされてしまう。

「それはいい!!みんなで泊まって夜は美織さんと七重さんの話をしようじゃないか!!」

「まぁぁ!!なんて素敵!!わたくしたちの知らない七重さんのあんなことやこんなことが聞けるのねぇ……」

行政と小夏の意識はどこか遠くへ行っているように、ただうっとりと虚空を見つめている。

(だから、好きすぎます……おばあちゃん、もう何とかしてよ!!)

美織は天国の七重に文句を言った。
当然答えは返って来ない。
だが幸せそうな行政と小夏を見て、まぁ今日はそれでもいいか、と隆政と笑い合ったのである。
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