この溺愛にはワケがある!?
「すごーい!大きーい!ひろーい!」

美織はキングサイズのベッドに頭からダイブした。
ポヨンポヨンと体重を吸収する高級マットレスは、自宅のせんべい布団とは天と地ほどの差があった。

「隆政さん!!これ、すごいよ!!ほら………あれ?……どう……」

振り返った美織は、腕を組んで入り口にもたれ掛かる隆政を見て驚いた。
笑っているわけでも、泣いているわけでもない。
そのなんとも形容しがたい表情に、一瞬言葉を失った。

「…………どうかした?」

やっと絞り出した声で尋ねると、隆政はゆっくりと歩き出し美織の側へ腰かけた。

「……俺んちは、両親が亡くなる前から正直微妙だった……」

「び、微妙??」

「うん。爺さんと婆さんの仲は冷えきってたからな。死んだ両親もその事をずっと気にかけていた」

「そうなの!?」

美織は驚きの声を上げた。
だが良く考えれば、七重の件で二人の間に多少の距離ができたというのはわからなくもない。

「だからな、俺は………あんなに二人が寄り添って笑い合う日が来るなんて思ってなかったんだ。これで、父も母も安心出来るよ」

「………………そっか……」

「………ありがとな……」

囁くように小さなお礼が聞こえた。
しかしそれに何と答えていいかわからない。
意図的にしたことじゃない。
何も知らなかったし、仲直りさせようなんて思惑はなかったのだから、お礼を言われるのはむず痒い。

「ん??何か言った?」

美織は咄嗟に聞こえていない振りをした。

「…………いや、うん。何でもない」

と言うと、隆政はベッド中央に陣取った美織目掛けて思い切り抱きついた。
その勢いに簡単に押し倒され、美織の体はまたポヨヨンと弾んだ。

(………せんべい布団でなくて良かった。今の絶対、後頭部打撲で死んでる……)

と、美織は心底ほっとした。
マットレスは大きく弾んでやがて収まると、見下ろす隆政と見下ろされる美織の不思議な空間が出来上がっている。
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