この溺愛にはワケがある!?
「た、隆政さん………これ……」

「マーライオンだよ」

「ええ、見ればわかるわっ!!だからどうしてこっ、こんな、デカイ……」

美織は隆政に詰め寄った。

「本物っぽいやつ欲しいって言ったろ?それにな、実はこれ、ただの置物じゃない」

「……何なの?」

(激しくイヤな予感がするっ!)

「暗くなったら、動くものに反応して目が光る」

「…………っ…センサーライト……!」

「そうそう。防犯にいいだろ?みおがマーライオンが欲しいって言ったとき、ちょうど石材店の友人が大理石でマーライオンを作ってたのを思い出して。ちょっと加工してもらったんだよ」

「……………へぇ、それはまた(迷惑な)偶然ね」

「だろ?1人暮らしの女性の家だからね。防犯は必須だよ。裏側にソーラーパネルがついてて電源は要らない。ああ、それから寝る前にスイッチを入れておくと、侵入者があったとき警備会社に連絡が行くようになってる」

美織は一瞬目眩がした。

「うわぁ………すごーい……本格的ね……」

「あれ?反応が薄いな、やっぱり水を吐かないとだめか??」

「と、とんでもないっ!!!」

こんな狭い場所で、水など吐かれてはたまらない。
これだけは全力で否定した。
だが、マーライオンに関してはもう何の反論もする気はない。
これは隆政のスケールの大きさを見謝った美織のミスだ。

(まさかこんなに常軌を逸しているとは思わなかった!!金持ちって……怖い)

と、改めて自分と隆政の間の大きな溝を痛感するのである。
全てを諦めた美織は庭のマーライオンをマジマジと見た。

(凄い光景ね……。これが現実なんてまるで思えない。ほんと、バカバカしい)

美織は何故か笑いが込み上げてきた。
質素な庭にそぐわない大理石のセキュリティマーライオン。
このとんでもない非日常が、美織の安穏な日常を壊して行くのがどこか楽しくもあった。

「ほんっとに!もう!あなたって清々しいくらいにバカね!この庭にマーライオンなんて………おばあちゃんが見たらきっと大笑いするわ!」

本当に、このおかしな光景を七重に見せてあげたかった。
と、美織は庭から見える仏間を振り返る。

「みおが欲しいって言ったものは何だってあげるよ」

何を悪びれることもなく隆政が言った。

「とんでもないものだったらどうするのよ。別荘とか、飛行機とか」

「そんなもの欲しがらない。みおはそんな女じゃないだろ?」

「だから、私の何を………ま、いいわ。ね、暗くなるまで待ってる?マーライオンの目が光るとこ、見てないんじゃない?」

「見てないな。性能も確かめてないし……ここで待ってていいか?」

珍しく少し遠慮がちに言う隆政に、珍しく美織も満面の笑みで言う。

「仕方ないわね、じゃあ、コーヒーでも淹れようか」

それから玄関の戸を開けて、暗くなるまで二人で待った。
やがて、日が落ちてくるとマーライオンの姿は辺りに溶け込み見えなくなる。
だが隆政が玄関先に一歩出ると、鋭い二つの眼が『ピカーッ』と光り、どこまでもその姿を照らし続けた。

「うん、高性能だ」

と、隆政は満足そうに微笑んだ。
こうしてマーライオンは、加藤家を守る?ことになったのだ。
< 23 / 173 >

この作品をシェア

pagetop